Parallel World A.A.

この冬に泊まったホテルのうち、おもしろかったホテルを二つ。

1.山の上ホテル

2月に妻と一緒に東京へ行ったときに、泊まりました。文学界という雑誌の目次にいつも広告が載っているので、昔から名前は知っていて、妻に、「東京、どこで泊まる?」と聞かれたときに、ふと思い出して予約しました。お茶の水にある古いホテルで、昔は、たくさんの有名な人が、このホテルにこもって原稿を書いていたそうです。ホテルを設計したヴォーリズという人は、少し前に、取り壊すとか壊さないとかで話題になっていた滋賀県の豊郷小学校を設計した人と同じ人です。

山の上ホテルは、自分がじっとしていたら、周りがどんどん変化していって、ふと気がつくと、いつの間にか貴重な存在になっていた、という感じのホテルでした。どんどん変化する東京の真ん中にありながら、スタイルを変えないでじっとしているのは、たぶん大変な努力を必要とすることだろうなと想像します。

外観と同じように、部屋も家具も昔のままで、ピカピカしたところが全くありません。僕は、新しい建物のピカピカしたところが、どうも好きになれません。ホテルだけではなくて新しい駅や新しいお店はみんなピカピカ、ツルツル、キラキラしています。掃除のしやすい素材を使っているからかもしれませんね。どうも安っぽいのです。だから、このホテルの内装には、とても好感を持つことができました。

2.直島ベネッセホテル

山の上ホテルとは対照的に、未来に向かって徹底的に想像力を拡大したといった感じのホテルです。設計は安藤忠雄。瀬戸内海の直島にあります。お正月休みに妻と二人で行きました。ホテルは美術館と一体になっていて、というより美術館にホテルが附属しているので、美術館で食事をして、美術館で寝るという贅沢な時間を過ごすことができます。

本館と別館があって、今回は別館に泊まりました。別館は山の上にあって、ちょっと危なっかしいケーブルカーで美術館&本館とつながっています。もちろん歩いて行くこともできます。

この別館は、僕の持っているホテルの概念を超越していました。瀬戸内海を見おろす壁一面のガラスドア。一日中水の流れている楕円形の中庭。緑で覆われた屋上庭園など。極限までシンプルで大胆で美しく、そして、コンクリートの打ち放しでありながら、みごとにまわりの自然に溶け込んでいました。その証拠に、大きなガラスドアを開けると、なんと猫が室内に入ってきました。関係ないかな。

山の上ホテルも、ベネッセホテルも、なかなか個性的で、もう一度行ってみたいホテルです。個性的なホテルで過ごした時間は、いつまでも印象に残ります。ところで僕は最近、こういう素敵な場所で過ごした素敵な時間には、絵を描くことはあっても、写真を撮らないことにしています。どうも写真は、あるべき本当の記憶をゆがめてしまうような気がするからです。記念の品も買わないし、パンフレットも捨ててしまいます。

そうやって、ものとして残らないところにお金を使って、場所と時間の記憶だけを積み重ねていくことで、ささやかな贅沢を味わいます。

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