Parallel World A.A.

不完全

苦情処理の仕事をしているときに、この人はどうしてそんな些細なことに怒っているのだろうと思うことがよくありました。まるで怒りの螺旋階段を転げ落ちるように、どんどんマイナスの感情に引き込まれていって、たぶん自分でも収拾がつかなくなっているのだろうな、というような感じがしました。少しでも明かりの見える方へ導かなければと思って、話を別の方向へ向けてみたりするのですが、めったにトンネルの出口へ向かうことはありませんでした。

どうしてだろう、と考えて、あるとき、とても大事なポイントを発見しました。
それは、怒っている人は些細なことに怒っているのではなくて、世界に対して怒っているのだということです。自分を含めた世界全体に対して怒っているです。
世界中を敵にまわしているのだから、僕がかなうわけがありません。

ところで僕は、自分が、とても限られた情報の中で生活していると思っています。世界を知っているとは思いません。不完全で限定された情報の中で判断をして、不完全で限定された情報をもとに行動しています。そして、他の人も同じなのではないかなと思っています。みんな限られた情報をもとに、自分固有の不完全な世界を築いているのではないかなと、想像しています。

もっと言えば、不完全であることは、全ての人に共通しているのではないかと思うのです。自分も不完全だけど、他の人も不完全。だから怒ったり笑ったり泣いたりするのかもしれません。不完全さを個性と言い換えてもいいのかもしれません。

たぶん怒っている人は、限定された情報をもとに構築された不完全な世界に対して怒っているのでしょう。どうせ不完全なんだから、些細なことに怒っても仕方がないのかもしれません。もっとも苦情処理をしているときに、そんなことを相手に伝えても、火に油を注いで、爆発してしまうでしょうね。

<絵:吉野川#3>

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