Parallel World A.A.

苦情処理

メインの仕事ではなかったのですが、去年まで僕のしていた仕事の一部に苦情処理というのがありました。たぶん、誰もやりたがらないでしょうね。でも誰かがやらなければならない仕事です。世の中には、そういうたぐいの仕事がとてもたくさんあります。たまたま、めぐりあわせで僕がしていただけのことです。

本当に、いろんな人が怒って電話をしてきたり、訪ねてきたりしました。どんなに忙しくても「私がゆっくりとお話を伺います」と言って話を聞きました。メインの仕事は、いつも時間を気にしながらこなさないといけなかったので、例えばあと30分以内に仕上げないといけない用件などがあると、本当に大変でした。そんなときは、隣の人にメモで指示を出したり、手と口とで全く別のことをしたりして、乗り切りました。暴力団や右翼など危ない人たちは、それなりの対応をする必要があったのですが、そうでない場合は基本的に僕が一人で対応して、完結させていました。

でも時々、最初怒っていた人が、僕と話をするうちに、次第になごんでくることがあって、そういうときは、とても嬉しくなりました。話を聞いているうちに、失礼な言い方かもしれないのですが、カウンセリングをしているような状態になって、世間話などをしているうちに、その人の怒りが収まってしまうのです。その人にとっては、誰かが話を聞いてくれるということが大事で、内容はどうでもよかったのかもしれません。

特に、一回だけでなくて、毎日のように怒って電話をしてきたり、訪ねてきたりする人というのは、ちょっと失礼かもしれないのですが、たぶん怒ることでコミュニケーションがしたかったのではないかと思います。

とにかく話がしたいから、怒る。とにかく人と繋がりたいから、怒る。人と話をして、人と繋がるための、手っ取り早い方法として怒っているような気がしました。他の方法があれば、他に話を聞いてくれる人がいれば、他に自分の居場所があれば、たぶん僕のところへ電話をしたり訪ねてきたりしなかったのではないかなと思います。

ただ、その怒りを受ける一方の僕は大変でした。一種の我慢比べみたいになることが多くて、ストレスフルな仕事だったと思います。

たぶん、自分の居場所があって、自分の話を聞いてくれる人がいるということは、それだけで、もう十分に幸せなことなのでしょうね。

<絵:たくさんの人たち>

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