Parallel World A.A.

クク

妻の希望で子猫と一緒に暮らすことになりました。名前はクク。僕は小さい頃に犬や鳥は飼ったことがあるのですが、猫は初めてです。

最初は、できたばかりの家や買ったばかりの家具に傷をいれるし、花瓶をひっくりかえすし、トイレ大変だし、とにかく家に動物がいるという、状況に、どうしてもなじめませんでした。

僕はどうも過剰に考えてしまうようで、最初のうちは、ククが昼間一人で家にいて寂しくないだろうかと心配したり、悪いことをするからといって怒ったりしたら、大きくなってトラウマにならないだろうか、と不安になったりしていました。くくが走ってきて僕の体にぶつかっただけで思わず「ごめん」と謝っていました。行動が理解できないので、とりあえずどうしていいのかわからなかったのです。

一方、妻は最初から大胆で、それが普通の猫の飼い方、なんだと思うのですが、かわいがるときは思い切りだきしめて、悪いことをしたら感情を込めてスリッパを投げつけたりしていました。

でもしばらくすると、僕も慣れてきました。かわいくてしかたがないようになりました。おもしろいと思い始めました。そして今は毎晩、ベッドで一緒に寝ています。

ククは、僕の膝の上で居眠りをするのが大好きです。腕を枕にして安心して寝ている姿は本当にかわいいと思います。猫かわいがりというのでしょうか。
好奇心がものすごく旺盛で、部屋の中の高いところは、だいたい制覇しました。失敗しても何度でもチャレンジして、そのうち自分の居場所にします。
複雑に配置された椅子や机の脚のちょっとした隙間をものすごい早さで通り抜けたりする運動神経は、見ていてほれぼれします。獲物をねらうポーズでピタッと制止したときの姿勢がきまっています。僕たちが教えたわけでもないのに、よくできるものだと感心します。ねずみが獲れるわけです。

今では、僕はすっかりククを理解しました。人間を理解するのは大変ですが、猫を理解するのは、比較的簡単だということがわかりました。

僕は、結婚してから、一人の人間を理解するのには、たぶん一生かかるだろうなということを悟ったのですが、ククなら大丈夫です。

<絵:舞中島>

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