Parallel World A.A.

てっちゃん

僕にはずーっと封印していた過去があります。それは僕が鉄道マニアだったという過去です。別に封印しなくてもいいのですが、長い間、鉄道マニアであることを止めていたのです。鉄道マニアであったことさえ忘れていたのです。頭の中から追い払おうと努力していたのかもしれません。でも先日、職場の人で東京から来ている人と一緒に飲む機会があって、その人から「実は僕は”てっちゃん”なんだ」と告白されて、それで僕も思い出しました。実は、僕は大学のときに鉄道研究会に属していたのです。

そこには、すさまじい「おたく」の学生がたくさんいました。
普段はほとんど言葉を発しないのに、飲みに行ったらいきなり駅名暗唱を延々と20分くらいする人とか、車掌のアルバイトをしている人とか、バスに詳しくて、乗り合いバスを乗り継いでどこまで行けるか挑戦している人とか(県境を越えるのが難しいそうです)。ちゃんとサークルの合宿もあって、どこかの私鉄の車両基地へ行って、会社の人でも答えられないようなことを質問したりしていました。

でも、何だか暗い学生時代になりそうな気がしたので1年で止めました。どうもてっちゃんは、女性にもてないようなのです。合コンをしているときに、いきなり「C51の動輪の直径って、いくらか知ってる?」と女の子に話しかけたり、「僕の彼女は、顔がアズキ色なんだ」と言って、手帳から阪急電車の写真を取り出したりするのですから、無理もありません。(両方とも人から聞いた本当の話です)

それで僕は、大学内のサークルよりも大学の外の英会話学校なんかに行くようになりました。鉄道研究会には女性が一人もいなかったのに、英会話学校は女性ばかりだったのです。もちろん英会話学校に行ったのは、そういう理由だけではありません。

もう結婚したことだし、妻も自分のことをおたくだと言っているし、僕も遠慮せずにてっちゃんに復帰しようかな。

それに、たぶんどんな人でも「おたく」的Iなものを一つ以上は必ず持っているだろうし、僕はもともと、そういうのを発見して、その人の「おたく」的な話を聞くのが結構好きなのです。

<絵:土手 #2>

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