Parallel World A.A.

メルヒェン

幸いなるかな、心の貧しき者。天国はその人のものなり。

ヘルマン・ヘッセの「メルヒェン」という本の中に、「アウグスツス」という作品があります。

内容は読んでもらうしかないのですが、乱暴に一言でいえば、老人から願いを一つかなえてあげると言われて、「みんなから愛されるように」と母親から願いをかけられた男の子が、成長するにつれて、富や名声や女性や欲しいものを全て簡単に手に入れ、誰に何をしても愛されるので次第に傲慢になり、それでもみんなが愛してくれるので、やがてむなしさがつのり、このすさんだ人生を自分の手で終わらせようと毒を飲もうとしたまさにその時に再び老人が現れ、もう一つ最後の願いをかなえてあげようと言われて、彼は「人々を愛することのできるように」という願いをかなえてもらい、その後は、人々から昔にした悪いことの代償を迫られ、富も友達も女性も失い、みすぼらしい姿でひどい目にあいながら、それでも人々を愛しながら心安らかに死んでいくというものです。ああやっぱり一言では乱暴なので、興味のある人は自分で必ず読んでくださいね。

最初に読んだのは、たぶん中学生の時だったと記憶しています。その時のことは、ほとんど覚えていないのですが、この作品が「幸いなるかな、心の貧しき者。天国はその人のものなり」というマタイ伝のことばを、メルヒェンにしたのだという事実だけは、よく覚えていました。

僕はクリスチャンではないのですが、母親がクリスチャンなので、一度だけ教会に行ったことがあります。その時に牧師さんが、この「幸いなるかな、心の貧しき者。天国はその人のものなり」ということについて話をしてくれました。それでまた「アウグスツス」を読んでみました。

大学時代の親友が中世哲学を研究していたので、彼とも、この作品について話したことがあります。その時にも読んだかもしれません。

というようなわけで、何が言いたいのかさっぱりわからないかもしれませんが、要するに、僕は、この作品が自分の物語だと思っているのです。テーマみたいなものです。ふとした拍子に、思い出したり考えたりします。

ただ、いまだに僕は「幸いなるかな、心の貧しき者。天国はその人のものなり」ということの意味がよくわかりません。表面的な意味はわかるのですが、腑に落ちないのです。

もう少し時間をかけて、いろんな経験を積んでいけば、やがてわかるようになるのではないかと期待しています。その時には、もう一度「アウグスツス」を読んでみようと思っています。

<絵:直島>

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