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巡礼

ベルギーからビデオテープが送られてきました。タイトルはPILGRIMAGES。巡礼です。去年、たまたま職場の人の友人がベルギーのテレビクルーを案内しているというので、一緒に食事をしたことがあり、そのときのことを彼らが憶えていてくれて、出来上がったビデオを送ってくれたのです。

彼らは女性1人に男性2人のクルーで、世界中の巡礼の風景を長い時間をかけて取材していました。そして、徳島では、おなじみの四国八十八カ所巡りを取材したというわけです。県外から歩きに来ている男性を追いかけて、きちんとフィルムに収めていました。クルーは独立した民間会社に属していて、これをヨーロッパのいくつかの国のテレビ局に売るのだと言っていました。

ビデオはフランス語なので、内容はほとんどわかりませんでした。カトリックやイスラムの巡礼シーンに混じって、聞き慣れた「はんにゃーはーらー」というのが聞こえてくるのは、どことなくユーモラスな感じがしました。四国八十八カ所巡りというのは、宗教なのかな。昔はそうだったかもしれないけど、今は違うような気がします。

宗教と言えば、僕は無宗教です。神社で手をたたくこともないし、お墓参りもしないし、何かを拝むこともありません。目をつむると、頭の中が混乱するのです。だから、お願い事なんてできません。でも宗教的なものに、とても関心があります。頭でっかちなのですね。そして宗教を信じている人が、結構好きです。自分は全く信じないのですが。屈折していますね。

冬の寒いときに、ドイツのパッサウという町を訪れたことがあります。オーストリアとの国境に面した、それはそれは素敵な町です。パイプオルガンで有名な教会があって、たまたま催し物があるというので、雪を踏みしめながら、行ってみました。教会の人に「自分は無宗教だけれど、一番後ろの席でいいから参加させてほしい」と断って、他の人の邪魔にならないようにしていました。地元の人しかいない場所に、アジアからの旅行者が観光気分で参加していることに少し引け目を感じたのです。

プログラムが終わりかけた頃、教会ではよくあることなのだけど、周囲の人と挨拶をするような場面がありました。そうすると、僕の周りで、それまで静かに自分たちの信仰の世界を深めていた人たちが、満面の笑みを浮かべて僕に握手を求めてきたのです。僕は、単純に感動しました。涙さえうかんできました。どうしてでしょうか。

ちょっと大げさなのですが、人を信じることが、どれほど難しく、そして、どれほどすばらしいことかが実感できたからだと思います。疑問を感じたり、人との距離を測ったり、時には反発したりすることは、もちろん必要です。でも基本的な態度として人を信じることは、とても大切なことだと僕は思います。

僕は宗教を信じないけど、人を信じようと思います。

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