【 TEXT RAIN 】     
      





「嬉しそうだな、おまえ」

 いささかの嫌味を込めて言えば、こくんっと首が縦に振られる。






「嬉しい」

「あんたと過ごす時は、なんだって嬉しい。が」

「この刻は特別だ」
「あんたが俺とだけいる。あんたのこんな刻を知っているのは俺だけだ」
「俺だけの赤髪」
 抱きしめる腕に力がこめられる。
痛くない程度に、けれど十分にその意図を知らしめる強さ。

「なんてぇ狭量だよ。赤髪の副官ともあろうもんがよ」

「何とでも。この位置を譲る気は無い」






「俺は弱くて卑怯な人間なんだ。あんたを喪うくらいなら、何だってする」
 ――そう、なんだってな……

    

 吹きかけられる息に心音が倍加するようだ。
 発せられる言葉の形に世界が震える。
それはシャンクスを包み、世界を充たす。
 繰り返し紡がれる言葉。身の内に注ぎ込まれるフレーズ。



 スキダ
 イトシイ
 アイシテル
 アンタガ イル



「……お前といると、世界はすごく俺に優しいと思っちまう」

「奇偶だな。俺もあんたといると、世界は優しいばかりのように思えるよ」
 そんなはずないのにな…

世界は優しくあたたかい。
 昔は思いもよらなかったことが実感として体の裡に染み込んでくるのが分かる。
温かいいっぱいの紅茶のように。冷やされた果実水のように。
 そのイメージは安らかで欲望よりも微睡みに誘う。



 世界は優しく心地よい。
 このものの傍らにある限り――




 
 お前が言うと、なおのことそう思えるぜ。
 おまえの声、好きだ。

 それは、どうも。

 ああ、でも、声だけじゃヤだ。
 おまえの声が言葉を話す。それがいいんだ。
 おまえの声、俺の中に入ってくる。
 俺の中に降り注いで、おれの血と肉に溶け込む。


 どうしたんだ、えらい感傷的になってるじゃないか。

 ふん、たまにはな。
 俺にだってセンチメントになるときはあるさ。






……あんたは大丈夫だ。
 あんたは世界を怖れない。だから、世界もあんたを愛する。

 そうだな、あんたは何にも囚われない。
 あんたが纏うのは男達の賞賛と渇仰と――
 それだけを身に纏って、あんたは伝説になる。
 生きながらにして既に――
 いいや、何世紀たとうと、あんたの名は残る。
 大海賊ロジャーのように。いやもっと深い部分に。




 海賊は家族を持たない。
 よし、港の女との間に子をもうけることがあろうとも、子どもは陸のものだ。
 受け継ごうという思いだけが彼らを未来に繋ぐ。
シャンクスに憧れ、シャンクスを目指そうという者はすべて、
シャンクスが生んだ者達と言って然るべきだろう。
 海賊として名を成すというのは、そういうことだ。



「皮肉なもんだな。
 誰よりも勝手に生きる者が誰よりも多くの者の生き方を左右する――」

「それもいいかもな」

 ベンの首を引き寄せ、その尖った頤にくちづける。

「けど、一人でンなもんになる気はねえ」




 その伝説には続きがなくちゃな。
赤い髪の傍には必ず、黒髪の大男がいるってな。
 赤と黒ってのは、一緒にしとくもんなんだぜ。




 首に回された腕はとても力強く
苦労性の副官の心を落ち着かせるに十分だった。







2004.5.29





☆ ぼー(_ _) とした頭のままアップしてるので
 かなり不安なんですが、 ま、いっか〜
 不都合があったら直します〜ということで。
 6/6のオマケ本としてつくったSSの後半部。
 前半はさすがに自主規制して後半だけ。
 でも……こっちだけだとまた別の意味で
 恥ずかしいカモ。



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