Teddy 2  
      


    



 テディのお披露目は即刻シャンクスによってなされ――
クマ(のぬいぐるみ)は、あっという間に船に馴染んだ。

 まず、若手の連中が喜んで受け入れ、
ついでヤソップをはじめとする子持ちの面々も
「素性は分からないが、いい奴」と認識した。
…素性云々を言えば、彼ら自身が胡散臭いのだから、追求する者などあるわけない。


「さすがお頭。顔が広いっすねー」
……ぼけた事をぬかしてくれる奴もいる。

「うちの娘がいたら、大喜びするだろーな」
「絶対話してやらなきゃな」
……ほら吹きと言われるから、ヤメロ。

 第一、なんて話すんだ。
クマのぬいぐるみと一緒に航海したってか…冒険譚が一気にファンタジーだな。

 心の中で突っ込みを入れつつ、顔には出さない。
鍛え上げたポーカーフェイスが幸いして、
副船長が動揺しまくっていると気づいた者はいなかつた。


 クマが、クマのぬいぐるみが、目の前で動いて喋ってる。
……見るたびに溜息が漏れる。
あまりにシュール。あまりに理不尽な光景だ。

 全員があっと言う間にクマ(のぬいぐるみ)に馴染んだ中、
たった一人拒絶反応が止まらないベン・ベックマンは苦悩していた。
己の理性を蓄えた知識を無効にするような事態に。



「そもそも俺は突発事態には弱いんだ……」

 他人が聞いたら笑い飛ばすような
(もしくは驚いて腰を抜かすような)愚痴をたれてみる。
もちろん心の中で、だが。

 他人の判断はどうあれ、ベンにとっては真実なのだ。
少なくとも彼の主観においては。
何が起きても動じないように見えるのは、
常にシミュレーションを怠らず、
あらゆる事態を想定して備えているだけだったりする。


 それがまた、
「何でも予想通りになったんじゃ面白くねぇじゃん」
と宣うシャンクスにからかわれる元なのだが。


「俺まで予想外の展開を楽しむようになっちゃ終いだろうが」

 いささか鬱屈した気持ちを抱えて、ベンは甲板を行く。
 火気厳禁の船内でも、彼の煙草はいっさいお咎め無しだ。
幸いなことにと言うか、
副船長の鬱屈に関わりなくと言うか航海は至極順調に進んでいる。
風は順風。積み荷はずっしり。あと一週間もすれば港に着く。
他の海賊や海軍への警戒は必要だが、言うなれば気楽な航路だ。
船内のムードも目に見えて軽くなっている。
こういう点、お頭であるシャンクスの性格を反映している。

 聞こえてくるのは、楽しげなハミング。
いったい誰が、と見やれば、
甲板に足を投げ出し、口ずさんでいるクマのぬいぐるみが目に飛び込んできた。
 ハミングするクマのぬいぐるみ――ベックマンの常識はショート寸前だった。
 視線に気がついたテディは、とことこと寄ってくる。


「すみません、うるさかったですか」
「い、いや…」


 まさか、おまえの存在そのものが気に障るなど言える訳がない。
「その…聞いたことがないメロディだったから…」
 それは嘘ではなかった。博学の副船長は、音楽にも造詣が深い。
そのベックマンをして、聞いたことがないタイプの曲なのだ。


「ああ、本来、この時代には無い曲だと思います」
 テディはあっさり言ってのける。
時代……ベンも密かに予想はしていたが、このクマは時を越えてきたらしい。


「ぼくの時代では、楽曲のルールもほとんど意味を持ちません。
作りたいように作って、歌いたいように歌うんです」
「しかし、それじゃ基準てものがないだろう」
「ええ、いわゆるクラッシックの分野には残ってますけど。
音楽だけじゃなく、ほとんどの分野で基準は壊滅状態ですね」


――ビルは、自分で基準を作りたがってましたけど。
 これは、ほとんど聞こえないほどの呟きだった。


「ビルがよく歌っていた曲なんです」
 テディはおっとりと言う。
「あ、ビルって、ぼくの持ち主なんです」
 言ってなかったことに気づいて、テディは付け足す。

「歌うと言っても、鼻歌で。
ビル自身は自分が歌ってるなんて気づいてなかったと思いますが。
テレビドラマの挿入歌だって言ってました」


「なんて歌詞なんだ」
「ええ」


 足を投げ出して座り込んだまま、テディはハミングし始める。
低い声とばかり思っていたが、意外に柔らかい。しっとりした声音だ。
 思わず耳を澄まし、歌詞の内容を理解した副船長は少しばかり赤面した。
――この歌をこのクマの前で歌ってたという奴は、かなり恥知らずだと思う。
この際、自分のことは棚上げだ。


……歌声はエンドレスに続く。
疲れを知らないかのように。
いや、そもそもクマのぬいぐるみが疲れることなどあるのだろうか。
 埒もないことを考えている――自覚はあったのだが。瞼が自然に下がっていく。


「お疲れなんですね。ベンさん」
「まぁな。
こいつってば、やんなくていいことまで背負い込もうとすっから」

「ああ、おまえ、行っちゃっていいぞ。副は俺が見とくから」

 笑いを含んだ声音――
 シャンクスの声だ、と知覚したとたん、一気に目が覚めた。
真っ先に目に入ったのは、己の前にしゃがみこんだシャンクスのにやにや笑い。


「あ、あんた。いつからここに」

「ん?ちょっと。だいぶ前から」
 にやにや笑いは、いっそう大きくなる。

 おまえのこと、探してたんだ。
 そしたら、おまえがテディとさ〜

 見られた?
 クマ(のぬいぐるみ)と居眠りしているところを?
 よりによってシャンクスに?

 固まったまま、わたわたする副船長の耳元に囁かれる声。

 テディのそばは気持ちよかったろ?
 少々妬けたけどな。

 そのまま頬をかすめ、離れていくもの――

「シャンクスっ?!」


 既に、シャンクスは背中を向けていた。
黒いマントの背が小刻みに震えているように思うのはベンの被害妄想…
ではあるまい。
順調すぎる航海に退屈しきっていた猫に、恰好の餌を与えてしまったのだ。
さぞかしからかわれることだろう。
少なくとも何か騒動が起きて、シャンクスの気が紛れるまでは。

おのが不覚を深く深く反省しながら、副船長は立ち上がった。


1へ  3へ









2003.4.19
テディが歌っていた曲のタイトルは
『テディベア』
詳しい背景に興味のある方はこちら↓のサイトへどうぞ。
『We got it Dude! FULL HOUSE』
http://www.joy.hi-ho.ne.jp/fullhouse/




この壁紙は 様からいただきました。。 

右上の「×」を押して、お帰りください。