―― 汀にて ――
      


    



 海は凪いでいて、とおく水平線まで見渡せる。
空は澄み渡って、所々に浮かぶ白い雲さえ空の青を引き立てる。
 海岸線こそ白い砂ばかりではないものの、
椰子の葉が揺れる南の島の水際で戯れるのは……むさくるしい男達だ。
 全裸、半裸、着衣何でもありで、
岩の間に座り込んでる者、沖合に泳ぎ出ている者、
やってることも格好もてんでばらばらだが、
すっかりくつろいだその様は、海賊とも思えなかった。




「「良い湯っすね〜」
 座り込んでる面々から、しみじみとした声が挙がる。
「まったくなぁ。海の中に湯が湧き出てるなんてな」
「おまけに岩が遮ってくれるから温度は入り頃に保たれてるし」
 岩は遠浅の海の岸から十メートル足らずの位置に並んでいる。
大きさは様々だが、適度な間隔を取って並んでいるので適度に冷水が入り、
そのわりに、湯は出て行かない。
結果、岩から陸寄りの汀は適温を保った露天風呂になっているわけだ。
実に良くできた場所だった。






「すごいのは、お頭っすよ。
あの島へ行ってみようせ、で温泉に行き当たるんだから」
 あ、馬鹿と止める間もあらばこそ。
「だろっー俺ってすごいだろー」
 とっても浮き立った声が降ってくる。
噂の的、スゴイお頭シャンクスも、きっちり温泉に入っているらしい。

「はいはい。あんたはすげーよ」
「これで忘れるかなー。先だって毒蛇だらけの島に上陸決めたのは」
「…ンな昔のことを持ち出すんじゃねぇっ。
第一血清の見本もいっぱい取れて、ドクターは喜んでたじゃねぇかっ」
 つまり、喜んでたのはドクターだけということでもある。
「あんたの行こうぜは、当たりはずれが大きいからな」
 副船長のかすかに笑いを含んだ声も聞こえてくる。
――腹心として、シャンクスの傍にいるわけだ。


「お前まで、そーゆーことを言うーー」
 派手な水音。どうやら盛大に水を引っかけられたらしい。
「勘弁してくれ、お頭。ブーツは濡れると後が面倒なんだ」
「けっ。夏島でそんなもん履いてる方が悪い。
郷に入っては郷に従えっていうだろーが」

 一瞬、サンダル履きの副船長という図が全員の頭に浮かび、
全員の精神安定のため速やかにデリートされた。

「冬島でもカルソンのままのあんたに言われたくないな」
「こりゃー俺のすたいるっつーもんだ」
「…お頭って、ほんとーに口が減らないつーか、
副船長には言いたいこと言ってますね」
「ありゃー完璧、過保護だな。俺が父親なら尻をたたいて躾直してやるんだが」
「…そもそも父親になんぞ捕まらんでしょ。お頭は」



「そろそろカッツェをよこせ。長湯が過ぎるとのぼせるぞ」
「あー、もうそんな経つか。カッツェー、出ろってさー」
 にゃう〜と甘えた声。赤髪海賊団のボス猫たる黒猫カッツェの声だ。
彼女もちゃっかり付いてきて、しかも、お頭と一緒の風呂に入っているらしい。
…よく、副船長が許したものだ。


「あれもなぁ」
「猫ってな、普通水に濡れるの嫌がるよな」
「水どころか湯だぜ。風呂に入る猫なんざ、俺ぁ初めてお目にかかるぜ」
「さすがにお頭が連れてきた猫っすね」
 がやがやがやがや、全員、口も頭もすっかりほどけているらしい。

「ちゃんと拭いてやれよ、副」
「分かってる。あんたこそ落とすなよ」
 聞こえてきたやりとりに、顔を見合わせてしまう赤髪海賊団ご一同様……

「なぁ、この会話って」
「言うなっ!俺のセンサイな頭脳がショートするっ」

「あんたも、そろそろ出たらどうだ」
 のぼせたあんたを担いでいくのは俺の役目になるんでな、
相変わらず笑いを含んだ声。声の主が上機嫌であることが窺えた。


「ぬかせっ」

 ひときわ高い水音とともに、空気が動く。頭上に赤い気配が閃いた。
 全員が空を見上げ、そのまま少し上の岩場に視線を釘付けられる。
 そこでシャンクスが笑っていた。
 素裸で、全てを晒し、何も隠さず―― そもそも隠す気すらなく、
青い青い空の下、赤い髪の彼らの頭は、全身で笑っていた。
 そこにいるのは一匹の獣。髪の赤さえただの彩り。
 断ち切られた左腕さえ、あるべき姿。
剥き出しの性器すら、鍛えられた筋肉同様、そこにあって然るべきモノだ。
 足下に付いてきたカッツェの鼻先を押しとどめ、そのまま海へと飛び込む。
その姿が海面に届くまでのほんの少しの時間。全員が息を詰めていた。
 浅すぎる水深。けれどシャンクスの体は海に抱きとめられ――
海面に赤が浮かぶとともに、にぃとしたシャンクスの笑いが波間に見えた。
そしてそのまま、沖に向かって泳ぎ出す。
 歓声が上がった。わらわらと若手の連中がシャンクスの後を追う。

 後を追って、どうしようとまでは考えていまい。
ただ――追わずにはいられないのだ。
シャンクスに魅入られて赤髪海賊団に身を投じた者達は。


 つきあいの長い幹部連中はさすがに付いてはいかない。
まったりと湯の中に座り込んだまま、岩場から下りてきた副船長を見ている。
 それとも、行けなかったと言った方が正しいだろうか…
「ふ、副船長、なんで水辺に銃なんて持ってくんだ」
「気にしないでくれ、性分だ」
 サッシュで銃を擦りながら言う。
 いっそお頭を追いかけて沖へ行ってくれた方が…
そう思ったのは一人や二人ではなかろう。

 その副船長の傍でカッツェは常になくおとなしく身繕いをしている。
珍しいことだ。風呂上がりというのは、猫でさえリラックスするのか。



「アレを放っといていいのか、副船長」
「仕方あるまい、お頭のやることだ」
 猫じゃないんだ、首に鎖や鈴を付けるわけにもいくまい、
と言われて、付けてくれっと叫びたくなったのは二人や三人ではあるまい。

「なぁ、カッツェ」
 呼ばれて、カッツェはにゃう〜としっぽを振る。
……あんたら、いつの間に共同戦線を……
「俺は、お頭も仲間も信頼してるからな」

 だから、銃を磨きながら、そう言うのはヤメロ。
これは、全員の心の声だったりする。
 完全武装で岩場にやってきたのは、
やはりでもんすとれーしょんというヤツだったんだなと
深く深く頷いた赤髪海賊団の幹部達は、そっと撤退を開始した。
 潮時だろう。下っ端たちも引き上げさせた方がいいかも、
と算段しているヤソップが一番貧乏籤を引くのかもしれない。
「おまえも来いっ」
 忘れずカッツェも引っ張っていく。
ミギャーと不平の声を上げられたが、かまったこっちゃない。
あの副船長の機嫌を損ねる方がよっぽど恐ろしい。



「撤収ーー」
 叫ぶ声は当然の如くブーイングで迎えられ、
やっと呼び戻したお頭にも拗ねられてしまった…
「なんで、俺がーー」と嘆くヤソップの夕飯の皿にはでかい魚のソテーが載っていた。
沖へ出た若手の戦利品だというそれは、せめてものコックの心遣いだった。

 ちなみに同じものがシャンクスの皿にも載っている。
その骨を取り除くのは当然副船長の役目で、
そして、足下にはお下がりを待つ黒猫の姿があったりする。





 結論――
 一つ。猫の首に鈴を付けるのは難しい。
 二つ。首尾良く付けたとしても、その鈴が猫の言いなりの場合、なんにもならない。
 つまりは、猫次第なのだと赤髪海賊団の全員は深く深く心に刻んだのであった。










2003.1.24



☆ お風呂求めてふらふらしてたら、トルコの露天風呂に行き着きました。
http://www.okada.de/turkey/bad/bad.htm
なんと、海の中に温泉が湧き出してるのです。
だから、のぼせたら冷たい海へと泳ぎだして冷やして、
涼しくなったらまた温泉へと戻ればいいのです。なんて便利な♪
 というわけで妄想タケノコ育成。

☆ ホントはリッチなホテルのお風呂になるはず、
だったのですが、ですが……かんぺき横ずれしました。
ムードもへったくれもありませぬ。季節はずれだし…ブチブチ。
宿題提出とは…とうてい言えませぬ(T.T)
 でも、せっかくだから、アップ〜


壁紙は「Studio Blue Moon」様からいただきました。。

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