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| 港々で、赤髪海賊団の評判はたいそうよろしい。 頭であるシャンクスの人気も当然上々。 こと子どもには関しては絶大と言ってもいいほどだ。 「ガキどもにアンケート取ったら、あんた、たちまちナンバーワンだな」 例によって肉を囓りながら、ルゥがにやにやと言う。 ちらりと横手の方を窺いながら。 そういう地雷をつつくような真似は止せ、とヤソップは心の中だけで突っ込む。 あくまで心の中だけだ。 ヘンにコワいもの知らずのルゥに巻き添えにされるのはゴメンだ。 関わり合いにならぬに限る。 「当然当然〜」 ガキ相手という部分は、都合良く無視することにしたらしい。 シャンクスは機嫌良く笑う。 その笑顔は、まるっきり“ガキ”で、 「アンタ、いくつだ」とつっこみを入れた者多数。 「ガキはガキにもてるんだな」と溜息をついた者、もっと多数。 |
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| 「シャンクスだぁ」 「シャンクスー」 わらわらと駆け寄ってくる子ども等からの声に、鷹揚に答えながら、釘をさす。 「お前ら、もう今日の分は稼いできたのか」 こくこくと一斉に振り下ろされる小さな頭。 「よしっ」 シャンクスは彼らの商売には手を貸さない。 海賊なんぞアテにならんからな、というのが彼の言い分だ。 そんなもんに頼っちゃいかんのよ、と、けっこう真っ当な主張をする。 ベンにとっては、どっちでもいいことだ。 不確かなものを頼りにして窮地に陥るのも、当人の問題。 要は、シャンクスが必要以上に彼らに構わなければ、オーケーだったりする。 港町では、子どもも立派な稼ぎ手だ。 使いっ走りから始まって荷役、物売り、もっと物騒なことまで。 彼らは働き、その後で自分のための時間を確保する。 たいていは夕方、大事な商売相手である船乗り達がつぶれている時間帯に。 その貴重なはずの自分の時間にシャンクスの追っかけをするのだから。 人気のほども分かろうというものだ。 シャンクスの黒いマントの回りには 常に子どもが何人かまとわりついている。 まとわりついていると言っても、別に遊んでやるわけではない。 子どもが喜ぶような何かをやるわけでも、珍しい話を披露してやるわけでもない。 シャンクスはいつも通りにうろつき、酒を飲んでいるだけだ。 ただ邪険にせず、どの子にもきちんと相手してやるのは感心する―― と、ベンは密かに思っていたりする。 身なりの善し悪しとか、見込みがありそうか否か、 とかは、シャンクスにとってはどうでもいいことらしい。 公平でよろしい、これでうろうろしないでくれたら、もっとよろしい。 のだが、希望はしばしば奪われるためにある。 「シャンクス、この人、副船長?」 「そうだ」 “得意っ”と顔に書いてある。 「そーいや、おまえが船に乗ってからこの町に寄ったのは初めてだっけ」 「ああ」 なら、知らねぇでもムリはないやな。 「ほい」 ベンの煙草を持ってない方の左手を取り、自分の体の前に持っていく。 「俺の副船長だ。ベン・ベックマン」 高らかに宣言する。 いくら裏通りとはいえ、街中でやることではない。後れを取ったベンは慌てて手を引いた。 が、時既に遅し。びっちり周りを囲まれていた。 「シャンクスの副船長?」 「てーことは、赤髪海賊団の副船長?」 「あの赤髪海賊団の?」 ざわざわざわ、ざわざわざわ…… どよめきは行ったり来たりしつつ、視線もベンから離れない。 頭のてっぺんへ行ったかと思うと、ブーツの先っぽへ。 かと思うと煙草を挟んだ指まで。 ガキな分、遠慮がない。 裏表ひっくり返されてるようで、ベンは身の置き所がない気分になった。 それでも、しばらく待つと、 気が済んだのか視線は徐々に離れていき、シャンクスの方へ戻る。 「いいなぁーシャンクス」 溜め息と共に、こぼれる言葉。 「……?」 「こんな副船長、持ってるなんて」 一斉にうなずく小さな頭。 あけすけな羨望の眼差しがベンに迫ってくる。 持ってる……持ち物か、俺は―― いや、確かにそうではあるが、いや、しかし…… 当の副船長が狼狽してる間に、船長殿はしっかり言い返している。 「いいだろー」 得意満面を絵に描いたような顔をして反っくり返る。 「うん、いいよなー」 「オレも欲しいなー」 「欲しいよなー」 かなり本気が混ざった年嵩の少年の声。 「だーめ。こりゃ、俺の」 「他人のもん欲しがってちゃダメだぞ」 ――それは、海賊の言うセリフであらうか? つい、文語調で詠嘆してしまうベックマンだったが、 シャンクスの人生教室は勝手に先に進んでいた。 「でも、いい男には女が付いてるもんだって姉さん言ってたぞ。奪い取るのみって」 「まあな」 それも一理ある。 シャンクスはうなずいて、そう言った少年の前にしゃがみこむ。 「既に相手のいるヤツに惚れ込むこともあるわな。 相手がいるからって諦められないこともあるよな」 ……だから、それは何の話なんだ、シャンクス。 「別に諦めるこたないぜ。本気で好きなら、本気でアタックするこった」 「それで相手が応えてくれたら、そんときには“だれかのもん”じゃなくなるんだ」 「アタックかぁ」 「そうさ、フル・アタック無しで手に入るもんなんて無いぜ」 「でも、丘の上のお屋敷の坊ちゃんは、何にもしないのに何でも持ってる…」 「はは、“丘の上のお屋敷の坊ちゃん”が、それを欲しがってるとは限らんさ」 人生、意外に公平なトコもあってな〜 なぁ、ベン。 ベンに向かって笑う。ベンのお頭―― 「しかし、おまえら、シュミ渋すぎっぞ。 こーゆーのの良さが分かるのは、毛が生えてからでいいんだぜ」 毛くらいあるぞー 一斉に頭を押さえるのは、やや年少の連中だ。 境界線上にいるらしい年嵩の面々は、お互いの顔を見合わせている。 「ガキ〜毛ってのはな」 ボカッ! ようやく立ち直った副船長の教育的指導が入る。 「いってえ、副ちゃん」 「子どもの前でそんなこと言うんじゃない」 「もー。副ちゃんてば、照れてんのー」 「…わきまえろ。女の子もいるだろうが」 「ん?んー」 見渡せば確かに、女の子が一人混ざっている。 ショートカットに半ズボンという格好なので分からなかったが、 十かそこらの彼女は顔を赤くしつつシャンクスから目をそらさなかった。 …ヤバ、ありゃ分かってるな。 だから、慎めといったろうが。 小声で、またまた罵倒される。 こういう時の副船長には逆らわない方がいい―― くらいは、シャンクスも学習している。 失地回復すべく少女に一礼する。 「失礼、レディ相手に口が滑った」 黒いマントが大きく舞う。 「レディだって!‐‐が」 沸き立つ声。 「なに言ってる、おまえら。 男はいくつになってもガキだが、女の子は何才だってレディなんだ」 な〜と言いながら膝をつき、少女の手の甲に口づける。 「この粗忽な海賊にお赦しを」 ギャラリーがどよめいたのは、当然だったろう。 「いかが?レディ」 見つめられて、真っ赤になりながら少女はうなずく。 この場合、うなずくしかないだろうが…… 「アンタは、またそういうことを」 赤髪のシャンクスをはり倒す副船長―― ギャラリーからは、溜め息がもれた。 「ただの挨拶じゃんかよー」 「バカ。あのキスはな、忠誠のキスだ。 むやみやたらにするもんじゃない」 「そっか、そりゃ困った」 再度膝をついたシャンクスは少女の顔をのぞき込んだ。 「ごめん、レディ。俺の忠誠の相手は、もういるんだ。 だから、今の無しな」 今度こそベンはシャンクスを引きずって歩き出した。 背後の喚声は無視だ。 |
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| 「全く……あんたって人は」 「全く……」 「全く…あんたは子どもには人気がある」 「へへ、妬ける?」 あの黒い髪の子のこと、ずっと見てたろ? それってヤキモチー? 軽口に返事など期待してなかったのに、 「ああ」 おそろしく率直な返答に、シャンクスの足が止まる。 「さては、ルフィのこと思い出してたろ?」 「ああ」 思い出すというのは当たらない。 彼はずっと俺たちの間にいる。 ルフィ…… シャンクスが助けた少年。 その一瞬、自分よりも優先された少年―― シャンクスだとて、忘れるはずがない。 まあな、俺は黒髪に弱いんだ。 分かってるだろ。 巻き付けられるマントとシャンクスの右腕。 自分の腕に顔を埋めるようにベンの胸元にすり寄り、 一瞬周りを見てしまったベンを抱きしめるようにして囁く。 「だから、お前にも弱いんだよ」 くすくすと笑って離さない。 これは―――イヤガラセなのだろうか? 通りかかった者達は、 硬直した赤髪海賊団の副船長という世にも珍しいものを見ることになった。 |
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| 2002.9.29 |
☆ 赤髪海賊団の立ち寄る港では、 こんな風景も見られたんじゃないかな〜という妄想の産物。 黒髪の女の子が誰かは…その〜ご想像にお任せします〜 |