| Harmony |
響き渡る鳥たちの鳴き声。 風に揺れる木々の枝、葉。 入り江に沿ったごく僅かな海岸線は、見事な白砂に埋まっている。 それは小さな星粒の形をしていて、 シャンクスはさっきから飽きもせず砂で遊んでいる。 勤勉なる赤髪海賊団の面々は、この五日あまりこの島で船の手入れに取り組んでいた。 竜骨を外すまではいかないものの、瀝青の塗り替え、帆布の張り替え等々、 人手はいくらあっても、ありすぎることはない。今も、幹部達はせっせと働いているはずだ。 あまり役に立たない、というか邪魔になることが多いお頭だけが、天下晴れてお休みをもらっている。 では、なぜ有能な副船長がそれに付き合っているかというのは、言わずもがな。 お頭を一人にしとくと、物騒なことこの上ない。 それくらいなら、多少――とは言えずとも――戦力ダウンは承知の上で、 初めっから副船長を付けとくに限る。というのが、赤髪海賊団の総意だったりする。 付けとかれる副船長にも異論はなく、かくて平穏な日々とはかどる作業―― 赤髪海賊団の面々は本当にお頭に甘い。 或いは、己が頭をよく理解している、と言うべきか。 かくて、放し飼いにされたシャンクスは、サウス・ブルーの休日を満喫していた。 サウス・ブルーの島々は生命に溢れている。 博識をもってなる副船長でさえ、名を知らない生き物たちでいっぱいで、 それはベンを落ち着かない思いに誘った。 ――世界には、己の知らないものが一杯で、 いつか、それらがシャンクスを連れて行ってしまうかもしれない…… シャンクスに知れれば、ぶん殴られそうな思いに駆られてしまう。 杞憂だと言ってすませてしまうには、彼は己を知りすぎていた。 ひたすらな生命の消費と再生―― 虫や魚や獣たちを見ていると、命と魂がぴったり重なった美しさを感じる。 シャンクスを見て受け取る思いは、それに似ていた。 島の風景の中に、シャンクスは溶け込んでいた。カッツェと同じように…… 「あんたは、そのままでいい」 人の象をした優美な獣。 望むがままに動くがいい。 心のままに眠り、笑い、食らい、セックスし、剣を振るい―― 何をしようと、彼が汚れることなどない。 ――いっそ俺のことなど捨て去ってくれていい。 あんたを縛る鎖になるくらいなら、 俺は…… 「ったく。お前ってば」 ベンの十八番を奪って、シャンクスは大きな溜め息を付く。 「いいかっ俺は何度でも言うぞっ。ホントのことを言うのに遠慮する必要なんか無えんだからな」 「お前が見てることで、俺がどんなに感じてるか、分かってっか?」 「…感じて」 ちょっと、かなり、語の使い方に問題があると思うのだが 「おうよっ」 シャンクスは大威張りで応じた。 「俺には宇宙だの世界だの、七面倒くさい理屈は分かんないけど。 でも、俺を見てくれてんのは、お前だろ?」 「お前が見てる俺は、お前が見てるからこそ在るんだぜ。ん?」 虚を突かれた。入れ子になった認識の袋小路――その不毛を、シャンクスに指摘されようとは。 「あんたはいつも俺を驚かせる」 いつもいつも、俺の一番欲しい言葉をくれる。 自分でさえ知らなかったそれを、惜しげもなく浴びせかける。 与えるという意識すらなく―― 「お頭だからな」 にししと笑う。得意そうなその笑みは、忘れられないあの少年にそっくりで、 ベックマンは彼の宝を傷つけたあの子どもを憎みきれない訳を思い知る |
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「まー、でも、見られてようが見られてまいが、俺は俺だけどな」 肩をそびやかして言い捨てる。 そして―― 「やろっ」 何とも芸のないお誘いと共に、シャンクスは突進してきた。 せめて、そっと抱擁しても罰は当たるまいに。 ン十キロの体重をもろに受けて、小揺るぎもしなかったベックマンはさすがで、 それでも一応抗議の声を上げる。 「危ないだろうが」 「だって、お前のこと欲しくなっちまったんだもん」 擦り寄せてくる胸元が熱い。 上目遣いに見上げてくる目元が赤い。 「お前の匂いがする」 ベンの背中に回される両の腕。 右側の空虚が、少しベンの心を哀しくさせる。 それでも―― この腕の中にシャンクスがいる。 人にして完璧な“生きもの”でもある奇蹟のような存在が。 何も隠さず、己の前にすべてをさらけ出している。 「ああ、そうだな。 あんたが生きて、動いている。 あんたの姿を見るために俺はいるのかもな」 「ばーか。見るだけですましたりしたら、承知しねえぞ」 「承知」 |
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楽しい楽しい船長命令を、ベンは謹んで受け取った。 |
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| 2002.9.25 |
☆ 田口ランディの『ハーモニーの幸せ』を読んで妄想爆裂―― どうしちゃったんでしよう、私…でも、しちゃったんですもの。 正直に告白しときます。ものすごーく影響されてます。 プリントアウトするときは、もう少し消化したものになるようがんばります。 『ハーモニーの幸せ』の感想は、「自分を見つめよう」コーナーにアップしました。 |