赤髪海賊団は、大所帯である。 シャンクスが初めて自分の船を持った時点では、たったの一艘だったものが、 今や二十を越える船で構成される大海賊団だ。 途中、頭であるシャンクスが利き腕を失うというアクシデントはあったものの、 それ以後もとどまることなく規模を拡大し続け、 その躍進ぶりは、全ての海賊や商船、海軍にとってさえ一大脅威となっている。 何しろいったん突ついてシャンクスの怒りを買った場合、 どこまでやられるか見当も付かないのだ。至極あっさりと放免されることもあり、 徹底的な殲滅戦になることもあり。 それがまた底の読めない男というシャンクスの評価を上げることにもなった。 海賊団としては、ありがたい事態だ。 趣味で海賊をやっているのでない以上、弾薬や人員の消耗は無い方がありがたい。 敵が避けていってくれるのなら、言うことない――では、終わらない。 赤髪海賊団の行動は、誰にも読めない。 危険を避けるとか、機会は逃さないとか、そういう分かりやすい括りではまとめきれないのだ。 それは、副船長が決める時とお頭が決める時とがあるからだ…… とは、古参の幹部達は口にはしない。副船長が決定権を握ったときの徹底ぶりときたら…… と思ってはいても、――そんなこと、恐くてとても言えない。 幹部はもちろんのこと、団員一人一人にかけられた賞金額ときたらハンパでなく、 したがって、航海中はもちろんのこと、港に立ち寄る際には、慎重な上にも慎重に準備がなされる。 警戒は怠りなく、偵察と視察にはことのほか力を入れている。 もちろん、情報は常に最新のものを!が、赤髪海賊団のモットーだ。 それは、副船長が万端手配するからだ……とは、これまた周知の事実だ。 赤髪海賊団の頭はシャンクスだが、頭はベックマンだというのは、知れ渡っている。 鳴り響いていると言ってもよい。 ベックマン自身は、大変に謙虚な人柄であり、 決して己の功績を誇ることなく己の労を嘆くでなく、黙々と為すべき事をなす、という体だが。 そこまでしている副船長の涙ぐましい努力をあっさりと無にしてくれるのが一人…… 船長であり、海賊団の大頭であるシャンクス当人だ。 今日も今日とて、入港を待ちかねて一番先に飛び出していってしまった。 「お頭、くれぐれも揉め事は」 「分ーってるって。だいじょーぶ、だいじょーぶ」 ………聞きゃあしない。副船長は、溜息を一つついて新入り達に護衛を命じた。 ――いつものことだ。 そして、あっという間にまかれてしまった護衛がすごすごと戻ってくるのも、いつものこと。 夜になって、 「副船長、お頭がまだ戻りません」 ……よくあることだ。 シャンクスが一晩くらい無断外泊したからといって、一々目くじら立ててはいられない。 「副船長、カッツェの姿も見えませんが」 「放っておけ」 ……かまうこたない。 いっそのこと帰ってくれなくてもかまわんがな。 と、これは声には出さないベンの本音だ。 が、次の日の夕刻になっても「副船長、お頭がまだ…」と報告された日には――― 留守を預かる身として少々キレても仕方があるまい。 既に煙草は二箱目も終わりに近い。苛々と船長室を歩き回ってる副船長の姿は、 立派に檻の中の熊だった。図体からしても申し分ない。――新入りたちには見せられない姿だ。 「猫だけ帰ってきてもな…」 シャンクスが帰ってきたらすぐ分かるように、 半分開けたままのドアの隙間から、黒猫がじーっと室内を伺っている。 「シャンクスなら、いないぞ」 邪険に突き放し――ふと気づいた。 アヤしい―――ベンがいたからといって、遠慮するような猫ではない。 「カッツェ」 近づいていっても逃げない。――ますます、アヤしい。おまけに…… 「このリボンは何だ?カッツェ」 貴婦人のチョーカーにも使えそうなつややかな真紅のベルベット。 見るからに高価そうなリボンが、カッツェの首に収まっている。 嫌がって、首輪などついぞしたことのなかった猫が? 「何か知ってるな、おまえ」 低い声をいっそう低くして威嚇しても、この猫には効き目はない。 ふんっと言わんばかりにきびすを返す猫を、ベンは思わず追いかける。 どうもこの猫がシャンクスの居場所を知ってるような気がしたのだ。 この際、猫にも縋りたい気分でもあった。 カッツェは、そのまま陸へ向かっていく。 まさか舫綱を伝っていくわけにはいかない。 折良く来合わせたルゥに事情を伝えて、小舟に飛び乗る。 その背に「過保護」と声が掛かったことなど、むろん知るよしもない。 カッツェは、埠頭で待っていた。 ベックマンが降り立つのを確かめるように、とっとと歩き出す。 またこれが、わざとのようにゆっくりと移動していくのだ。 「やっぱりこいつ、何か知ってやがる」 ベックマンの疑惑は深まる一方だ。 救いは、カッツェが早足ではあるが、落ち着いて進んでいくことだ。 本当にシャンクスが危地にあるなら、この猫がこんなに落ち着き払っているはずがない。 ぎゃんぎゃん喚いてベンを急かすはずだ。 一人と一匹はしだいに町の中心から離れ、どんどん山手の方へ進んでいった。 それにつれて、港の傍の歓楽街とは一線を画した上品な屋敷が並ぶようになった。 一見目立たない造りながら、使われている材の太さやレンガの厚さで、それが分かる。 やがて、カッツェが足を止めた場所―― 「ここか」 ひときわ豪華な、けれど、どこかアンバランスな印象を与える邸宅だった。 鍛鉄製の塀は華奢な唐草模様のくせに異様に高く、そのくせ、門は開かれたままだ。 あちこちの窓からは明るい光がもれ、貴重な油を潤沢に使用しているのが分かる。 当然警備も厳しいはずだが、それらしい者の姿は見あたらない。 ベックマンはしばらく考え、あっさり正面突破することにした。 警護の者が出てきたら、出てきたときのことだ。やっつければすむことだ。 多分、邪魔は入るまいとの予想通り、門番達はあっさりベックマン(と猫)を通した。 扉の内側にいたのは、黒ずくめのドレスに身を包んだ初老の女ひとり。 決して醜くはない顔立ち――けれど、一瞬でも目を離したら忘れてしまいそうな特徴のない顔。 「ようこそ」 女は、落ち着き払って招かざる客を迎えた。 「――赤髪はどこにいる」 女は、すいと人差し指を伸ばした。指したのは、ひときわ賑やかな方向だ。 そちらに向かうベックマンの足取りは、自然と速くなっていた。 突き当たりのドアを開いた先に現れたのは、豪奢な部屋だった。 分厚い絨毯。あちこちに置かれたコンソール卓には、磁器の壺に大輪の百合や薔薇が飾られ、 その間を埋めるようにダマスク織りやゴブラン織りのクッションが散らされている。 そして、それにもまして華やかな女達の群れ。 その真ん中に、シャンクスはいた。 目と目があった。 そのとたんのシャンクスの第一声は、 「ベック、助けろーー」 ……なんとも情けないものだった。 いったいなんと返せと。 いくらなんでも、着飾った“レディ達”を蹴散らして助けるわけにもいくまい。 それに…… 「あんた、なんてぇかっこしてる……」 ベンの声が脱力しきったものになったのも、致し方あるまい。 着飾った女達の真ん中に座らされたシャンクスの恰好ときたら――― ハイネックの白いドレスなのだ。 上半身はぴったり躰に添わせた上に、レースを縫いつけ、 ほっそりした中にボリュームを出している。 袖はジゴ袖。 手の甲まで続く長袖は、鍛えた腕を隠し、その上にこれでもかと白サテンのリボンが交差して結ばれている。 これはどうやら、わんさとひしめく“レディ達”の仕業らしい。そのリボンが揺れて、左腕の不在を隠す。 贅沢に布を使ったスカート部分は、行儀悪く胡座をかいたシャンクスの足を覆う。 幾重にも重なったベールの様なトレーンは、多分シルクボイルだ。 オーバースカートとアンダースカートはまだしも、 シャンクスが動いた拍子にペチコートまで見えて、ベンは少しばかり感動してしまった。 そこまでやるか…… もしかしたら、コルセットまで付けさせてるんじゃあるまいな、とあらぬ想像をしてしまった… チュールレースのロングベールの上には、ご丁寧に、 白い薔薇のコームを飾ったヘッドドレスまで被せられている。 さすがにそれは、斜めにひん曲がっていたが――まるきりウェスト・ブルーの婚礼衣装だ。 慌ててベールを外そうとするシャンクスに、黄色い声が挙がる。 「だめぇ」「せっかくきれいになったのにぃ」 いいようにオモチャにされている。 これで、ヒゲが残っているのが不思議なくらいだが。 多分、シャンクスが本気で嫌がったのだろう。 “レディ達”は、オモチャにしつつも、シャンクスを傷つける気はなかったわけだ。 それで、かえって抗いようがなかったのだろう。 シャンクスの表情は、ふてたような、当惑したものだった。 まったく、この人は―――悪意にはかっきり反応するくせにな。 これは、言葉にはださなかった。 「シャンクス、帰るぞ」 一斉に上がる悲鳴。耳がきんきんしてほとんど聞き取れなかったが、 おおかた「イヤ」とか「ダメ」とか叫んだのだろう。 その真ん中にいたシャンクスは、耳を押さえている。 「あんた達の“好意”は分からんでもないが、いつまでもここに置いとくわけにはいかん」 これでも、大事なうちの頭なのだ。 それでも、この“レディ達”を説得することを思って、くらくらしてきたベンの後ろに立つ者があった。 「そうさね、もう潮時だね。お迎えが来てしまったんだから」 「さぁさ、あんた達。もう充分楽しんだろ。 この子を帰してあげなきゃね」 持ち主に、と続けそうな口調だ。 “レディ達”はあっさり立ち上がった。 楽しかったわ。 ステキよ、あなた。 また来てね。 さざめきながら、また、シャンクスの頬に口づけながら退出していく。 「ちょっ、これ脱がせてってくれよー」 半べそをかくシャンクスには、これまたあっさりとご託宣が下った。 「冗談。あたしゃウチの娘達に怪我させたくないからね。 彼に脱がせておもらい」 シャンクスが抗議する間もあらばこそ、だった。 ベンもきっちり行動で同意を示してくれて、 着付けに1時間以上かかった“レディ達”の苦心作は、 十分と経たぬ間に抜け殻と化して床に散らばった。 「もったいない気もするがねぇ、よく似合ってたのに」 「ウチの娘たちが喜んだからねぇ、欲しいとこだけど」 「―――これでも、一応うちの頭なんでな」 かなり据わってきたベンの声音にも、老女は動じない。 「分かってるよ。だから、ちゃんと返してあげたろう。」 それは、彼女がその気であれば返さなかったということだ―― ベンは、これ以上ここに留まる気はなかった。 「今日はありがとうよ、シャンクス」 「う、うん…」 いまいち分かっていない彼は、この老女にどう対応したものか決めかねている。 「その気になったら、またおいで。歓迎するよ」 ――ベンの忍耐の潮時だった。シャンクスを引きずるように、屋敷を後にする。 要領よく姿を隠していたカッツェが、シャンクスの左の肩に飛び乗ってきた。 「あー、オマエ、どこ行ってたんだよー。人がひどい目に遭ってるってのにー薄情モン」 シャンクスがぎゃんぎゃん喚き立てているのをよそに、ベンは黙って歩いていたが、 シャンクスがそんな沈黙に耐えられるはずもなく、 「ベンちゃん、怒ってる?」 「怒ってやしない……」 怒ると言うより、呆れてると言うべき心理状態だ。 「あんた、いったい何をしたんだ、あの屋敷に連れ込まれるなんて」 「だってよ、 市場歩いてたら、あのばぁちゃんが座り込んでてさ。道に迷ったって言うからよ」 だから、家まで送ってったので、自分は悪くないとシャンクスの目が訴えていた。 「で、送っていって、連れ込まれたわけか」 ベンは、心中深く、地球の裏側にも届こうかという溜息をついた。 まったく、まったくこの人は… そんなことだろうとは、思ったが、よくよく期待を裏切らない人だ。 「あ、でも、何も悪い事なんてされなかったぞ。美味しいお菓子も食べさせてくれたし」 飯も美味かった。きれいで。ちまちましてて、あんまり腹一杯になんないのが難だけどな。 ぺらぺら喋るシャンクスは、さっきまでの気まずさは忘れたらしい。 きっちりベンの横に並んでいる。 そりゃ、飯も美味いだろう。あそこは…… ベンは何度目かの溜息を落とした。 あの屋敷が、王侯貴族や豪商のみを客とする高級娼館であることなど、 シャンクスに言う気はない。 まして、あの老女が、この港町の実質的な支配者であるなど、 シャンクスが知る必要などない。 実際、シャンクスがいるのがあの屋敷だと分かった時は、 動悸が二割り増しになったものだ。 素直に返してくれたから良かったものの…… 「シャンクス、早く帰らないと、朝飯を食いっぱぐれるぞ」 「えー」と姦しい悲鳴。 「ああ、ルゥに出かけると言ってきちまったからな。 ヘタすりゃ朝飯食われちまう。急ごう」 ベン・ベックマンはさりげなく、彼の船長の手を取った。 赤髪海賊団の副船長は切れ者である。 たいそう良くできた男であるともっぱらの評判だが、 その陰では、副船長をタネにした賭が進行しつつあった。 「副船長は、いつ禿げるか?白髪になるか?」 そのオッズは高くなる一方…なのを本人は知らない――― ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐ ‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐(合掌) |
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| 2002.6.22 |
| ☆ ………言い訳は……きかないでしょーね(‥;) あれは、忘れもしない6月9日――VS2の会場を駆け巡った「お頭の名前が」情報。 そして翌週――本誌でのお頭&赤髪海賊団の登場! そりゃあもう、皆様お祭り状態でしたが、私も、静かに狂喜乱舞しておりました。 ええ、例え傍目にはそうは見えなくとも。 でも、まったくお変わりないお頭をよそに、 すっかりおつむに霜を頂いてしまった副ちゃん(^_^;)のお姿…… 何があったの?お頭はナニしたの? 苦労したんだねぇ、副ちゃん。きっと、あーんな事や、こーんな事を…と妄想してました。 ですので「Snap Shot」なんです。気分はすっかりフォーカス。 あげくに、その時書いてた暗ーいお話をほっぽり出して…… シャンクスにも、絹を纏わせたくなったんです。それも、ゴージャスなドレスを! ウェジウッドバービーがいけないんですぅ〜ごめんなさい〜 http://www.m-n-j.com/town/entertainment/isako/wedg.htm ナニしてんでしょ、私。自分で自分が信じられません(‥;) やっぱりBGMはジュリーでしょうか(-_-;)「堕ちていくのも幸せだねと〜」 |
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