近づいてくる足音は、まっすぐこの部屋に向かっていたが
ベンは、警戒などしなかった。
警戒心の欠片もないようなぺたぺたした足音は、シャンクスしかない。
何かの折りには、あれほど滑らかな動きを見せるものを―――

足音だけでなく、近づいてくる気配全てがシャンクスを顕していて、
どちらかというと「待ち受けていた」がベンの心情に近い。

出航のための手配に追われ、今日も目一杯、働いた副船長が
今日も朝早くからどこかへお出かけあそばして、
食事時にも帰ってなかった船長を迎えるのだ。
丁重にお待ち申し上げても、許されるだろう。




ベンの胸中を知ってか知らずか、
怖れ気もなく足でドアをノックする音がする。
シャンクスがノックなぞ、した試しがないのだが。



どうした?入って良いぞ?


ベンちゃん、開けてー
この呼び方からして、何か企んでいるのだろうが、
ベンは頓着無くドアを開いた。




目の前に花畑が広がった。
ドアが占めていた空間を、そっくりそのまま満開の牡丹が埋めている。
赤がほとんどだが白や桃色も少しは混ざっている。
葉っぱも潤沢に付けられ、緑の中の牡丹花は庭園の風情を漂わす。
強くはない、けれど心地よい芳香が鼻を打つ。
足下から立ち上り、ふっと鼻の奥までくすぐって消える。
微香ではあるが、これだけの花数があると次々に上がってくるので
香りが消えてしまうことはない。
潮臭いはずの副船長室は、花の香に埋まった。



その向こうに、嬉しさをこらえきれないようなシャンクスがいる。


びっくりした?副ちゃん?

ああ。どうしたんだ、これ?




花びらを痛めないよう、気をつけて受け取る。
折良く、半分ほど水が残っていた桶に投げ入れにする。




もらったーー。
山の方に行ったら、爺さんが育ててよーー
さすがに黄色のヤツは無かったけど。
おまえに見せたかったからさー
欲しいって言ったら、切ってくれたんだ。




また……罪もない一般人をタラシこんだらしい。
まったく――この男に頼まれて、最後まで拒絶した人間の方が珍しい。  
      と、これはベンのぼやきだ。




なら、誰かに持たせりゃ良かったのに。
なにもあんた自らが持ってこなくても


これだけの牡丹の花を片手で抱えるのは、けっこう重労働だ。
花がばらけてしまわないよう紐でまとめてはあるが、歩きづらかっただろうに。
いや、それ以前、名高い赤い髪の海賊が
大量の牡丹の花を抱えてとことこと歩いてる図というのは……




だって、これ見たときのおまえの顔が見たかったから。

あんたに所望されるとは光栄の極みだが。で?




言葉の前に腕が伸びてきた。
そのまま、ベンの肩にのって、首に巻き付く。
芳香とともに、葉の青い香が立ち上った。




安心したぁ

くすくす笑いをこらえているような声。




おまえ、びっくりはしてたけど、イタい顔はしてなかったもん

おれ、花に焼き餅焼かなくてすんだ。




耳元で囁かれると、クるものがある―――




急に重さを増したようなシャンクスの身体をベッドに導きながら
ベンは囁く。

気にしていたのか?
イースト・ブルーに入ったことを……






嘗て―――
彼らが出会った海―――






んーー別に気にしてたわけじゃないけど
でも、おまえってしつこい性格だからさ。
昔のこと思い出してたら、むかつくじゃん?

だって、そうだろ?オレが傍にいるのによ。
オレが傍にいなかった時のことなんかさ。



ベックマンは、間近から見据えてくるシャンクスの視線を受け止めた。
つよい、「目に光りあり」と言われるに足る眼。




―――忘れた、と言えば嘘になる。
けれど、シャンクス。あんたといる現在(いま)と比べるなら、
過去など取るに足りないものだ。
ただの―――過ぎ去ったときでしかない。





オレが思い出すのはいつも、あんたがいる光景だよ。




ベックマンは、彼の唯一の“花”に唇を寄せた。






あんたといる“現在”に不満などない。
“未来”にも、だ。
悔しいのは、あんたといなかった“過去”だけだが
それすら、あんたと出会うためと思えば許せるさ。



漣のようにうち寄せる己が腹心の声を
赤髪の海賊は極上の子守歌の如く、うっとりと聞いた。






2002.5.17





☆ そもそもの始まりは「ティーの縁側」のティーポット様が
 「GLAMOUR FORCE」LA銀様のサイトでキリ番踏んでいただきましたイラスト。
 副船長〜♪♪♪筋肉が逞しくて〜うっとりしているうちに、
 その頃考えていたストーリーから、ころんと転がってきたモノが(^_^;)
 ホントなら、本編を先に出すべきなんですが、ま〜その〜で。
 こちらが先〜(^o^)

 ティーポット様の許可をいただいて、密かに地下通路を掘りました。
 
【追加】
 LA銀様のギャラリーにも、地下通路を通させていただきました〜\(^_^)/

このページの壁紙と、上のバナーは「zeit-X」様からいただきました。

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