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猫の恋 |
| 「おー啼いてる啼いてる」 「ちっけぇなぁ」 「いっちょまえに威嚇してるぜ。頼もしいじゃないか」 「おふくろさんによく似た黒だな。美人になるぜぇ」 ふっふっふっ そうでしょ、そうでしょ。 あたしの子どもたちは、可愛いでしょ。 たーだし、オスばっかなんだけどね。黒が二匹。黒っぽい雉虎が一匹。 ってもほとんど黒、だわね。 「で、父親は誰なんだ?」 父親?さぁ、前の前の港で逢ったボス猫だと思うんだけど。 もうシーズンも終わったし、オトコなんて、どうでもいいわぁ。 「まったく驚かしてくれて」 「なんだ、副船長。知らなかったのか」 「いや、太ってきたとは思ってたんだが……」 ホントにもう。このバカは。 いくらあたしがスマートだからって、おなかに子どもがいるのと太ったのとを間違う? しゃんくす、やっぱ、番(つがい)の相手はよく考えて選んだ方がいいわよ。 こんなの役立たずよ、役立たず! 「なんだ?カッツェ。なにムキになってんだ」 あたしの頭を撫でてくれるしゃんくすの掌は、とっても気持ちいい。 もうじき生まれるって分かって、この部屋に戻ってきたあたしを、ずっと撫でてくれてた掌よ。 眠くなっちゃうくらい気持ちいい…… 「で、どこで産んだんだ、カッツェ?」 そんなの決まってるじゃないの。ルゥ。 しゃんくすの、えっとそのーもにょもにょの上よ。 だってだって、一番落ち着けたんですもの。 猫が子どもを産むのは、“一番落ち着ける場所”に決まってるじゃないの。 この男は、なんだかだと文句付けてくれたけどね。 言ってくれたわよねえぇ。 「シャンクス。せめてタオルを敷け。衛生上良くない」 悪かったわねぇ。 せっぱ詰まって、あたしが駆け戻ったときに、何にも着てない方が悪いんじゃないのよ。 それも、あんなにあたしが啼いてるのに、なかなかドアを開けないから。 あたしも焦っちゃって、それでつい、あんたの足を引っかく羽目になったんじゃないの。 あんたのせいよっ! ナニしてたんだか、ふんっ。 |
| 一月もすれば、子どもたちは自力でうろちょろするようになった。 あたしの後に付いてくるだけじゃなく、自分でも探検してるみたい。 もちろん戦闘の時とか嵐の時とかは、あたしががっちり押さえてるけどね。 なーんたって、この船はあたしの船、なんですからね。 子どもたちの勝手にさせるわけにはいかないわよ。 あぁ、子どもたちの名前? それがねぇ……そもそもは、アイツが悪いんだけど。 「おーい、アー」 「こらこら、引っかくなよ、ベー」 「おい、ツェーを踏むなよ」 そうなのよ! みんな仔猫をアルファベットで呼ぶのよ。 A(アー)、B(ベー)、C(ツェー) そりゃ最初はアルファベットだなんて知らなかったけど、 ドクターに教えてもらったときは、くらくら来たわよ。 あの男が、そう呼び出したのよ。当然他のもんも、そう呼ぶじゃない。 あっという間に子どもたちってば、自分の名前はコレだと覚え込んじゃって。 もうっ何考えてるのよっ、あの男ってば。 そりゃ3匹とも毛並みはよく似てるから区別しにくいのは分かるけど。 だからってねぇ………… やっぱ、この男には詩的センスってのは欠片もないわね。 なーのーにー、「はくがく」とか言って、みんな頭っから信用してるんだから。 ふんっだ。 |
| それにねぇ、なんだかやけに視線を感じるのよ。子どもたちといると。 しゃんくす?違う違う。 しゃんくすは、見るときはちゃんと見るの。すっと視線を向けて、声を掛けて、で 頭を撫でてったりノドをこすったりしていくの。 正しい猫とのつきあい方ってもんよね。 副なのよ。見てんのは。 気が付くと、あいつってば、じーっとあたしと子どもたちのこと見てるのよ。 害意とかはかんじないんだけど、なんていうの。 落ち着かないものよ。そういうのって。 だから、時々は使ってやったわよ。 子どもたちがうるさくなったら、一匹ずつしゃんくすとベンの足の上に乗せてやるの。 そうすりゃあたしは、落ち着いて…… と思ったんだけど……誤算だったわ。 いいのよ、あたしがバカだったんだから。 しゃんくすはいいのよ、しゃんくすは。 ちゃーんと遊んでやってるわ―――ン、と遊ばれてる、のかしら。 だのに、副ときたら、ぼーとして。あたしの方を見ててどうするのよ。 ほら、ツェーが落ちそうになってるじゃないの。 ああっ、ダメダメっ。そんな真っ向から視線を合わせちゃ。視線をずらして、見つめるのよ。このヘタクソっ。 あんたってば、あんたってば、何でも器用にこなすんじゃなかったの。なんて不器用なのよ! |
| 航海は、楽しかったわ。 あたしと仔猫たちはずっとずっと赤髪海賊団と共にいた。 あたしたちはイーストブルーもノースブルーも、ウェストブルーだって行った。 戦闘になろうが、嵐になろうが、あたしたちのいるべき場所はここなのよ。 港に入ることもあったけれど、そんなに長居はしなかった。 この時期のしゃんくすは、そう――海の上を楽しんでいたみたい。 だから、1月近く、一つの港に泊まるのなんて、ずいぶん久しぶり。 そう、仔猫たちの大きさがあたしとほとんど変わらなくなり、 鳴き声まで成猫めいてきた頃だったわ。 そこは、サウスブルーの外れにあって、一年中暖かな土地柄で、 街から少し離れれば森も小川もある。大陸からは少し付きだした岬の突端。 そこそこ賑わっていて、でも、それほど柄が悪いわけじゃない、そんな港町だった。 あたしも当然街を探検したし、仔猫たちも船を下りてうろうろした。 |
| “その日”が近いことは、分かっていた。 そして、“その日”が来た。 ―――あたしには分かった。 「お行き」 あたしはごく普通の声で言った。 仔猫たちは、まだ何となくキョトンとしていたけれど 「お行き」 もう一度繰り返すと、ちゃんと気づいた。 あたしの子どもたち――― 一度だけ振り返り、けれど躊躇わなかった。 すでに馴染んだ港町の雑踏に向かって、三匹とも当然のように進んでいった。 A(アー)、B(ベー)、C(ツェー) すとんと上から大きな掌が下りてきた。 何も言わずに、あたしの頭を撫でてくれる、しゃんくすの掌。 それに比べて…… 「シャンクス、仔猫たちだけじゃ危ないんじゃないか。誰かやった方が」 あんたってあんたって、ホントーにバカ! いいこと、あたしはちゃんと子どもたちを一人前に育てたのよ。 なんで、その上にまだ面倒みなくちゃならないの。 あの子たちはあたしとは違うんだから。 あたしとは違う場所で、あたしとは違う一生を生きるんだから。 「猫ってなぁ、仔猫が一人前になったら、さっさと独り立ちさせるんだよ。ベン」 その通り!しゃんくすは正しいわ。 副ってば、そのくらいのことも分かんないの? まったく、これで赤髪海賊団一の物知りで通るんだから、 赤髪海賊団のちてきれべるってヤツが案じられるわ。 そうよ、あたしは子どもたちを愛してた。 だからこそ手を離すのよ。 そんな呆然とした顔しないの。ベン。 これが猫の子別れよ。 そ・れ・に♪ 子どもとは別れがあるけど、しゃんくすとは、ずーっと一緒なんだから。 子どもたちに譲ってた指定席も、あたしのものに戻るのよ。 しゃんくす♪しゃんくす♪ あたしたち、ずーっといっしょよ♪ |
| 2002.4.29 |
| ☆ ……どうやら、カッツェにとっても、永遠の恋人はシャンクスらしいです。 子どもを産もうが、恋の季節が来ようが、それはそれ、これはこれ、のようで。 気の毒に。副はずーーーっと苦労することでございましょう〜 |
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