……噎せ返るような香水の香。 「ねえ、■■様」 彼の手にそっと重ねられた細い白い指からも、娘の熱が伝わってくる。 見上げてくる潤んだ瞳は、なおのこと―――貴族階級の令嬢にとって、 うら若い異国の使者は、恋物語の具現化した存在でもあるのだろう。 ……息が詰まった。 触れられた指先から、凍っていくようだった。 今熱っぽい目を彼に向けるこの娘も……“母”のようになるのだろうか…… 夫に見捨てられたと?子供を産んで人生を台無しにしたと? 生きながらにして葬られたような日々を過ごし、 その原因を作ったと、息子への呪詛を募らせ…… 「失礼。レディ、室内に戻りましょう」 「風が出てきました。夜風は体に毒です」 娘の目にはあからさまな失望の色が浮かんだ。 それでも■■の促すまま広間に戻る。 ■■の主張は、とても理にかなったもので、 それでも、と押せば、娘の評判に傷が付く体のものなのだ。 娘を保護者たる父親に渡して、ほっと一息つく。 気を利かせた給仕人が差し出す酒の中から一番強い火酒を選ぶ。 喉を灼く酒精が、少しは体を温めてくれそうだった。 王はもう、退出している。 王が参加するからと懇願されて顔を出したのだが、 その義理は果たしたはずだ。 ■■はそっとテーブルを離れた。 ちらちらとこちらを伺う娘達の視線を断ち切るように、 速やかに動く。近づきになろうと誘いをかける者達に声をかける隙を与えないほど素早く動く。 長身によく映える濃紺の長袍。上半身には提花雛緞椴の無地を生かし、 裾には「四海清平」を意味する「水波紋」を京派盤金刺繍で入れたそれは、 異国の衣裳なのに、■■には、とてもよく似つかわしかった。 彼の動きに反応しようとした誰もが、 結局声をかけるのを躊躇っておわった。 峻拒する部分が、この異国の若者にはあった。 “王のお気に入り”という噂をとうに越えた事実も、彼らを止めた。 いつもの道から逸れてみる気になったのは、 或いは臭いに呼ばれたのかもしれない―― 主通路を外れ、庭園へ抜ける小径へと踏み出す。 足を進めるごとに異臭は強くなる。 ……覚えのある匂いが鼻を打った。血の臭いと…そして…… 木立の中、隠れるように兵士達がいた。五人―― そして、木の枝に麻縄で吊された若い男。 慌てて■■に向き直る彼らの動きで、 臭いは、さらに耐え難いものになった。 くらりときそうになったモノを、頭を振って振り払い、 ■■は、一歩足を進める。 吊されている男の髪は、夜目にも鮮やかな“赤”だった。 ランプの灯など、とうてい及ばぬ“赤” 剣の先に突かれて、男の躰がこちらを向く。 男は、ゆっくりと顔を上げた――― |
| 2002.7.22 |
| ☆ 何とか先が見えてきましたので、初っぱなの部分だけアップ。 こーゆーお話です。 とっても暗ーい出会いでございます。 お嫌な方は、申し訳ありませんが、帰ってくださいませね。 |
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